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ナノインプリントを使ってこんな事ができる
2018/09/07

シミュレーション事例 ≪ SERS ≫

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SERS (Surface-Enhanced Raman Scattering)


#1 : はじめに

当社は、ナノインプリント技術を用いたファウンドリ・サービスはもちろん、高度なシミュレーション技術を用いた最先端の受託解析も承っております。

SERS(Surface-Enhanced Raman Scattering:表面増強ラマン散乱)は、多くの研究分野で重要性を増してきています。例えば、生物学、材料科学、電気化学、表面科学などです。

SERSでは、金属面へのレーザ照射で表面プラズモンが励起され電磁場が増強されます。SERS効果はおおよそフィールド振幅の4乗に比例するので、フィールド振幅を100倍に増強できれば、1億倍のSERS効果が得られることになります。その効果の波長範囲は、可視から近赤外(450~2000nm)にまで及びます。しかし、医療への応用が可能な生物学的透明窓(700~1400nm)は比較的狭いです。[1]  

SERS効果のもう一つの要因である化学的な増強効果については、光学的なシミュレータでは扱えないのでここでは取り上げていません。SERSが発生する機構は未だに完全には解明されていませんが、可能な範囲でそれを理解して先進のアプリケーションに用いるための準備をします。SERS効果の光学的な解析には、RCWA(厳密結合波解析)を用います。

 
       
#2 : SERSに適した金属材料と構造

SERS効果は以下の条件で発現します: [1]
(1) 構造の大きさは波長よりも明らかに小さい
(2) 複素誘電関数の周波数(波長)依存性において、その実部と虚部の比率が大きく、そして実部の値が負である
(3) その付近での電界の変化が急激である

その他の条件としては:
(4) 測定したい分析物または細胞と化学的且つ生物学的な互換性がある
(5) 化学的且つ時間的な安定性がある
(6) 再生可能且つ経済的に準備できる

一般的に、微小な球状の粒子はRe(-εm)/Im(εm)に比例する共振の強度を示します。ここで、εmはプラズモン材料の誘電率です。粒子の形状が球に比べて複雑な場合には、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)の波長や強度は変化します。例えば、形状が球から葉巻のように引き延ばされると、共振の強度は{Re(εm)}^2 /Im(εm)に変化します。[2][3][4]

 
  
 

#3 : SERSに用いる解析手法とモデル(1)

・SERS用の解析手法の歴史:
初期は、DDA(Discrete Dipole Approximation:離散双極子近似)が用いられました。次に、FDTD(Finite Difference Time Domain:有限差分時間領域法)が流行りました。最近は、RCWA(Rigorous Coupled-Wave Analysis:厳密結合波解析)による解析が多いです。

・主な解析手法の比較(FDTD対RCWA):
FDTDは、近似を用いないためあらゆる解析に適用可能で、SERSが発生する波長も容易に特定できますが、精度を保つためには膨大な計算資源(メモリ、CPU時間)が必要になります。SERSが発生する波長をパラメータ・スキャンで一旦特定してしまえば、操作が容易で計算資源もFDTDに比べて少なくて済むRCWAが便利です。
 
   

#4 : SERSに用いる解析手法とモデル(2)

・モデルの次元:
3次元モデルでは、構造の形状に対して偏波を自在に設定できますが、SERSが発現する偏波が限られているためこれは利点にはなりません。ただし、僅かな偏波のずれが発生した際の性能評価は、3次元モデルでないと行えません。2次元モデルでは、2種類の偏波(TM:断面方向、TE:長手方向)しかなく、SERSが発現するのは偏波がTMの場合だけです。

・モデルの構造:
球および葉巻状の回転楕円体に対しては、既に示したように答えが分かっています。しかし、これから解析しようとしている新しい構造に対しては、答えは自分自身で見つけなくてはなりません。

・材料データベース:
頻繁に利用される材料(金、銀、PMMA、等)については、ライブラリとしてシミュレータに登録済みの場合も多く、それらを選択するだけで利用できます。めったに利用されない材料については、複素屈折率や複素誘電率の材料分散のデータを読み込んで同様に利用します。

   

#5 : SERSのシミュレーション結果(1)

この設計例の詳細については、まだ公表できる段階ではありませんが、SERS効果は同種の金属間の狭い隙間で発生します。2つのケースの解析結果を以下に示します。

最初のケースは、電界の増強を最大にします。そのために必要なパラメータの組み合わせとそのフィールド分布が示されています。入射光の強度を単位として正規化すると、140倍以上の電界の増強が得られています。

注意:
SERS効果は局所的なフィールド増強により引き起こされるので、フィールド分布の分解能を上げるために十分に大きなHarmonicsの値が必要になります。SERSでは、回折光学素子の場合ように、小さなHarmonicsの値で解析することはできません。Harmonicsは、RCWAの解析条件の一つであり、DOEの解析では最大の回折次数を指定すれば十分です。

 

 

#6 : SERSのシミュレーション結果(2)

次のケースは、電界の増強が比較的強くしかも安定性にも優れたパラメータの組み合わせを探し出します。入射光の強度を単位として正規化すると、95倍以上の電界の増強が得られています。しかも、3種類の設計パラメータ中のGapというパラメータが±12.5%変化しても、フィールド増強の変化を数%程度に抑制できています。

そのフィールド分布は、電界の増強が最大の場合とは異なります。最大値が得られる箇所が2つに増え、より広い範囲で電界の増強が起こっています。

 

 

#7 : まとめ

発生する機構は完全には解明されていないSERSであっても、その物理的な意味をしっかりと把握して、適切なツールと適切な条件を用いれば、理論的な研究に寄与できる、ということを示せたと思います。

#8 : 参考文献

[1]
SERS: a versatile tool in chemical and biochemical diagnostics,
K Hering et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry 2008,
Volume 390, Issue 1: Page 113-124

[2]
Alternative Plasmonic Materials: Beyond Gold and Silver,
Gururaj V. Naik, Vladimir M. Shalaev, and Alexandra Boltasseva,
Advanced Materials 2013, Volume 25, Issue 24: Page 3264-3294

[3]
Searching for better plasmonic materials,
Paul R. West et al.,
Laser Photonics 2010, Rev. 4, No. 6: Page 795-808

 [4]
Optical properties of metallic films for vertical-cavity optoelectronic devices,
Aleksandar D. Rakic, Aleksandra B. Djurisic, Jovan M. Elazar, and Marian L. Majewski,
Applied Optics, Vol. 37, No. 22, 1998



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